蓄熱水蒸気による塗膜の膨れ原因とは?対策を徹底解説

現場の研究 2025.06.30
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アステックペイントでは、塗装時に起こる不具合についてお問い合わせをいただくことがあり、そうした事例を日々蓄積しています。その中でも「膨れ」に関するお問い合わせは多く、問い合わせ事例全体のうち約12%を占めています。

「膨れ」は、さまざまな条件が重なって発生する現象ですが、今回はその中でも「蓄熱水蒸気による膨れ」の事例について、発生の原因と対策をご紹介します。

事例紹介

実際にお問い合わせをいただいた膨れの事例を2件ご紹介します。

■1件目の膨れ発生事例

下地・仕上材ALC / 単層弾性系(青色の旧塗膜)
膨れの様子・直径数センチメートル程度の膨れが多数確認できる ・膨れが発生した箇所を切開すると、青色の旧塗膜が蜂の巣状になっている
発生傾向東面、南面で発生
発生部位日当たりの良い箇所で発生
施工時期2月 ※施工後5年で膨れ発生

■2件目の膨れ発生事例

下地・仕上材モルタル / 塗り壁材(オレンジ色の旧塗膜)
膨れの様子・直径数センチメートル程度の膨れが多数確認できる ・膨れが発生した箇所を切開すると、オレンジ色の旧塗膜が確認できる
発生傾向南面で発生
発生部位南西面の窓枠下部で発生
施工時期6月 ※施工後1年で膨れ発生

蓄熱水蒸気による膨れの原因

先程ご紹介した外壁に発生する数センチメートル程度の膨れは、下地に水分が残っている状態で、次のような条件が重なることで発生する「蓄熱水蒸気による膨れ」です。

この膨れが発生しやすくなる主な条件は、以下の6つです。

・旧塗膜が水分を吸い込みやすい素材であること

※特に、弾性タイル、単層弾性、塗り壁材などで膨れが発生しやすい傾向があります。

・下地が軽量モルタルやALCなどの断熱性が高い外壁であること

・降雨が当たりやすい面や窓枠下部など、水が流れる箇所であること

・梅雨時期など降雨が多い季節や、昼夜の寒暖差が大きく結露や夜露が発生しやすい時期に施工すること

・直射日光が当たりやすい面であること

・塗り替え工事で使用した上塗材が濃色系塗料であること これらの条件が重なったときに膨れが起こる場合があります。3章では、膨れ発生のメカニズムと要因について、さらに詳しくご説明します。

蓄熱水蒸気による膨れのメカニズムと要因

膨れ発生のメカニズム

●旧塗膜内部への水の浸み込み

①劣化した旧塗膜内部に水分(降雨・高圧洗浄水・結露・夜露など)が浸み込みます。

旧塗膜の劣化が進行することで、さらに水分が浸み込みやすくなります。

②水分が旧塗膜内部に残存した状態で塗装を行うことで、水分が旧塗膜内部に閉じ込められます。

●旧塗膜内部での水蒸気圧の繰り返し

③直射日光が当たって外壁面の温度上昇によって、旧塗膜内部で2つの現象が発生します。

(1)旧塗膜に残存している水分が水蒸気となり、水蒸気圧が発生します。水分は蒸発して水蒸気になると、体積が約1,700倍に膨張すると言われています。この膨張により、旧塗膜内部で水蒸気の圧力がかかります。

(2)温度上昇に伴い、熱可塑性の旧塗膜が柔軟化します。

熱可塑性とは、塗料を塗装して硬化した際、熱が加わると柔らかくなり、冷やすと再び固くなる熱の影響を受ける性質のことです。1液形の塗料・仕上塗材がこれに該当します。

④夜間に外壁面の温度が下がると水蒸気圧は弱まりますが、再び日中の外壁面の温度上昇により旧塗膜内部に水蒸気圧がかかります。

●膨れの発生

⑤塗膜が昼夜の温度変化による「膨張(水蒸気圧の上昇)と収縮(水蒸気圧の低下)」を繰り返し(③~④)に耐えられなくなると、膨れが発生します。

膨れ発生の要因

①旧塗膜が水分を吸い込みやすい素材であること

特に「弾性タイル」、「単層弾性」、「塗り壁材」といった仕上げの場合、膨れの発生が多い傾向があります。

②下地が軽量モルタルやALCなどの断熱性の高い外壁であること

※イメージ写真

断熱性の高い外壁材は、建物内部からの熱の移動を抑える一方で、熱が外壁内に蓄積しやすい(蓄熱効果が生じやすい)特性があります。軽量モルタルやALCパネルは特に、太陽光などの影響で外壁表面の温度が上昇しやすく、それに伴い水蒸気の発生量も増加する傾向があります。

③梅雨時期など降雨が多い季節や、昼夜の寒暖差が大きく結露や夜露が発生しやすい時期に施工すること

※イメージ写真

高圧洗浄後に十分な乾燥時間を確保していても、塗装前の段階で降雨や結露により下地に水分が含まれてしまうことがあります。この状態で塗装を行うと、膨れが発生する可能性があります。

④降雨が当たりやすい面や窓枠下部など水が流れる箇所であること

※イメージ写真

降雨が直接当たる外壁面や、窓枠下部など雨水が集中して流れる部位は、外部からの水分が浸入しやすい箇所です。そのため、塗膜内部で発生する水蒸気圧も大きくなりやすく、膨れが生じるリスクが高まります。

⑤直射日光が当たりやすい面であること

※イメージ写真

太陽光によって表面温度が上昇しやすいので塗膜内部の水分が加熱されやすく、膨れが発生しやすいです。また、太陽光の紫外線や熱によって塗膜の劣化も進みやすく、塗膜のひび割れが発生しやすくなります。

⑥塗り替え工事で使用した上塗材が濃色系塗料であること

※イメージ写真

黒色や濃紺などの濃色系塗料は、白やベージュなどの淡色系塗料に比べて太陽光による熱を吸収しやすく、塗膜表面の温度が特に高くなりやすい特徴があります。そのため、塗膜内部で水蒸気圧が発生しやすくなり、膨れが起こるリスクが高まります。特に断熱性の高い下地や、雨水の影響を受けやすい部位と組み合わさる場合は、より注意が必要です。

上記の①~⑥の要因が重なると、膨れが発生しやすい傾向があります。

蓄熱水蒸気による膨れを防止する方法

蓄熱水蒸気による膨れは、下地に水分が残存している状態で塗装を行うことが主な発生要因となります。そのため、塗装前に下地内部の水分を十分に乾燥させること、ならびに施工環境や塗料選定に注意を払うことも重要です。膨れを予防するために、以下のポイントを意識して施工を行ってください。

①高圧洗浄後の乾燥時間を長めに確保する

物質に含まれる水分量を測定できる含水率計は「下地」に使われることがほとんどであり、外壁に塗装されている塗膜の含水率を測定することは非常に困難です。そのため、降雨後や湿度の高い時期は、通常よりも乾燥期間を長めに確保することを推奨します。

②下地の温度上昇を防ぐために「遮熱塗料」や「淡彩色系の塗料」を選定する

これにより、外壁表面の蓄熱が抑制され、塗膜内部での水蒸気圧の急激な上昇を防ぐことができます。また、施工時期や外壁部位によっては、細かな配慮が必要となる場合もあります。施工前の下地調査や、適切な気象条件下での作業計画、施主様への事前説明も重要な対策となります。

蓄熱水蒸気による膨れが発生した際の対応

蓄熱水蒸気による膨れが発生した場合は、以下の手順で対応してください。

①膨れ箇所の除去

膨れ箇所は、カッターやスクレーパーなどで除去します。

②十分な旧塗膜内部の乾燥

内部の水分が放出されるまで、十分な乾燥時間を設けます。

③下地調整および補修塗装

微弾性フィラー等の適切な下地調整材を用いて平滑に補修し、乾燥後に肌合わせを行います。補修部位と周囲との段差が生じないよう、ぼかしながら上塗材を塗装します。

膨れの補修は、気温が高く膨れが発生しやすい夏を過ぎた時期の作業をおすすめします。

また、水蒸気圧によって塗膜が繰り返し押し上げられることで膨れが発生するため、補修時には発生していなかった別の箇所でも、後から同様の膨れが生じる可能性がある点にもご注意ください。

ただし、旧塗膜内部の水分は時間の経過とともに徐々に蒸発するため、膨れの発生は次第に低減して沈静化する傾向があります。

まとめ

今回は、膨れの事例の中でも、下地内部に含まれる水分によって発生する「蓄熱水蒸気による膨れ」についてご紹介しました。蓄熱水蒸気による膨れが発生しやすい条件は、以下の6つです。

・旧塗膜が水分を吸い込みやすい素材であること※特に、弾性タイル、単層弾性、塗り壁材などは膨れが発生しやすい傾向があります。

・下地が軽量モルタルやALCなど、断熱性が高い外壁であること

・降雨が当たりやすい面や窓枠下部など水が流れる箇所であること

・梅雨時期など降雨が多い季節や、昼夜の寒暖差が大きく結露や夜露が発生しやすい時期に施工すること

・直射日光が当たりやすい面であること

・塗り替え工事で使用した上塗材が濃色系塗料であること

これらの条件が重なる現場で塗装をする場合は、特に注意が必要です。高圧洗浄や結露が発生した際は、下地が十分に乾燥していることを確認してから作業を行うようにしてください。乾燥が不十分な状態で塗装を行うと、内部の水分が後から蒸発し、塗膜を内側から押し上げて膨れが発生するリスクが高まります。

なお、膨れの補修工事は、膨れの発生しやすい高温期を避け、秋以降の気候が安定した時期に実施することを推奨します。また、補修した部位以外にも、後から膨れが生じる場合がありますが、時間の経過とともに旧塗膜内部の水分が減少し、膨れの発生も沈静化へ向かいます。

今後の塗装工事の参考としていただければ幸いです。

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この記事の監修者と運営者

【記事監修】
株式会社アステックペイント 
谷口 智弘

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株式会社アステックペイント 
谷口 智弘

株式会社アステックペイント技術開発本部 本部長
住宅用塗料市場のマーケティング分析・品質管理を行う「商品企画管理室」、塗料の研究・開発を行う「技術開発部」、塗料の製造・生産・出荷を行う「生産部」の3事業部を統括するマネジャーとして、高付加価値塗料の研究・開発を行っている。

【運営会社】
株式会社アステックペイント

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株式会社アステックペイント

AP ONLINEを運営する株式会社アステックペイントは、建築用塗料を製造・販売する塗料メーカー。遮熱性、低汚染性に優れた高付加価値塗料の研究・開発の他、システム・販促支援など、塗装業界の課題解決につながる事業を展開。2020年以降、遮熱塗料国内メーカーシェアNo.1を連続獲得中。

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