当社は毎年30名～40名ほどの学生を採用しているので、学生採用の最終面接では、私は80名ほどの学生と一時間ほど話し込んで、学生と共にお互いを評価し合いながら、最後の運命的な出会いが決まることになる。

毎年かなりの長い面接時間を学生向けに費やしていることになるが、私にとっては世の中の最先端の価値観に触れることができ、とても貴重な時間となっている。私のように社会人を30年も経験をしていると、どうしても固定概念や自己勝手なあるべき姿を基準としてしまうが、学生と話すと全く違う感覚や概念をもっており、毎年沢山の新たな発見をさせて貰っている。

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その中で、今年になり学生との会話の中で、一つ大きな変化を感じている。コロナ前の頃は、学生が企業に求めている価値観の一つに「ライフワークバランス」という言葉がよく使われていた。これは、「仕事はちゃんとやるけど、自分の時間もしっかり確保して、プライベートと仕事の両方の充実した人生を歩みたい」というような考えであった。そこで、当社としても、可能な限り「ライフワークバランス」が実現できるような環境を整えるように努力をしていた。しかしながら、今年はこの「ライフワークバランス」という言葉どころか、面接の中で、仕事とプライベートの両立をしたいというような発言さえも無くなっているような気がしている。それよりも、給与や会社の手当など、かなり現実的なことをとても気にしているような感じがしている。

それは、もしかしたらインフレの影響なのかもしれないと思っている。日本社会は、過去二年間実質賃金が下がっている。多少給与は上がっているはいるが、それ以上に物価上昇（インフレ）しているので、実質的な賃金は下がっていることになる。すなわち、日本国民の大多数は毎年困窮化している現状がある。そのような状況下で、学生ながらも親が苦しんでいる姿を見たり、自らが多額な奨学金という実質的な借金を背負い、アルバイトをしても生活費用が上がっているのを実感しているのかもしれない。

現在の学生の状況を、マズローの欲求5段階説から考えてみると、コロナ前のデフレ時代はお金の心配は然程無く、給与が低くても食べていける時代だったので、「ライフワークバランス」という価値観を重要視出来ていた時代だったかもしれない。そうなると、「自己実現の欲求」のような上層欲求を求めることが出来た。しかしながら、実質賃金が下がるインフレ時代では、「安全の欲求」のような下層欲求を無意識ながらも求めているように感じている。

そのような学生の欲求、もしくはニーズに対して、どのような環境を提供すべきか考えてみた。一つの答えは、「稼ぐ力」を身に付けることだと思っている。仕事を通じて自分自身を成長させ、仕事のスキルや能力を向上させ、結果として「稼ぐ力」を身に付けることが出来れば、下層欲求に引っ張られることもなく、「自己実現の欲求」を目指すことが出来るようになるであろう。

これからも続くインフレ時代においては、会社として、「稼ぐ力」という価値観を意識していきたい。そのためには、学生時代の友人の誰よりも仕事の量をこなさなければならないし、高い目標を常に掲げ続け、そして目標達成をしながら、自己成長を求め続けるしかない。そのような環境が提供できる会社でありたいと思っている。顧客のニーズに応え続けて顧客満足を上げ続けると同様に、学生の欲求やニーズに応え続け、社員満足を上げ続ける努力をしていきたい。このような努力を会社として行わなければ、優れた学生との運命的な出会いはないであろう。

＜2024年10月号アステックペイント定期発行物ホットラインより＞