終わりの見えない住宅塗装市場の低迷

代表コラム メーカー 2024.07.12 (最終更新日:2024.10.08)
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2024年になり、インバウンド消費の増加、日経平均4万円突破、賃上げ率5%超えなど、一見すると景気の良い話題が溢れているように感じることもありますが、住宅塗装市場では2023年より低迷が続いています。その原因としては、アフターコロナ、インフレ、客層の変化など様々な複合的な要因が重なっているかもしれません。

果たして2024年中、もしくは来年以降の市況の好転は期待できるのでしょうか。今回は、各種経済指標を確認しながら、可能な限り現状を正確に把握していきたいと思います。

国内の経済は総崩れなのか?

内閣府が5月に発表した2024年1~3月期のGDP(国内総生産)改定値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.5%減、年換算で1.8%減となりました。GDPの構成項目は多岐にわたりますが、「民間消費は四半期連続マイナス」、「民間住宅需要はマイナス」、「民間企業投資はマイナス」、「財貨サービスの輸出はマイナス」など、大半がマイナスとなっており、国内経済は総崩れの状態と言えそうです。その反面、テレビなどを賑わせている大手企業の定期昇給(定昇)とベースアップ(ベア)を合わせた賃上げ率は5.58%と、33年ぶりの高水準で、賃上げ率、引き上げ額ともに3年連続で前年を上回っています。

そして、300人未満の中小企業においても、4.69%の賃上げ率の結果が出ているようです。とても国内経済の総崩れという結果とは繋がっていないように感じてしまいます。

実際には、消費者物価指数の上昇率は3%以上と高水準が続いており、さらに基本給などの賃上げはされています。しかし中小企業を中心として残業代やボーナス代が落ち込み、賃金総額は増えていないため、結果として2024年3月の実質賃金(賃金から物価上昇分を引いた賃金)は前年比2.5%減と、24か月連続の低下となっています。これが、国内経済の総崩れに繋がっていると言えるのでしょう。

すなわち、日本社会の99.7%が中小企業と言われていますが、大企業に関わる社員以外の大半の国民は可処分所得が24か月間連続で減り続け、益々貧困化している現状が見えてきます。

「世代によって賃金上昇率が異なっている」事実

さらに注目すべきことは「世代によって賃金上昇率が異なっている」事実です。前述のように2024年の賃上げ率が大企業で5.58%、中小企業でも4.69%と高水準となっています。ただし、全体の統計数字としては正しいのですが、“すべての世代が同等の恩恵を受けたわけではない”という部分に注目です。

厚労省が実施する「賃金構造基本統計調査」の「年齢階級学歴別所定内給与」によると、全体では賃金は上がっていますが、30代前半までの若年層が伸びて牽引役になっており、60代以降のシニア層でも伸びています。その中でもほとんど上がっていないのは「30代後半から50代前半の世代」。つまり、ロスジェネ世代(団塊ジュニア世代を含む)と呼ばれる世代となっているようです。

若年層が上がった理由としては、日本では、まだまだ年功序列の給与構造が多いため、若年層はそもそも賃金水準が低かったので上げやすいこと、少子化の影響でそもそも人数が少ないこと、3年以内で3分の1が転職するなど流動性も高くできるだけ優秀な人材を引き止めたいことが考えられるそうです。

シニア層が上がった理由としては、従来まで主流だった再雇用に代わって定年延長が増加したことによる影響が大きいようです。

30代後半~50代前半の給与が上がらない理由とは

30代後半から50年代前半が上がらなかった理由としては、他の世代と比較すると元々賃金水準が高いこと、第2次ベビーブーム世代も含まれるため人口が多いこと、年齢層的にライフイベント的にも一番お金を必要とする時期でもあり、賃金上昇の恩恵を受けられず不満を持ったとしても、容易に転職できないことが考えられます。

住宅塗装市場での我々のメイン顧客でもある団塊ジュニア世代を含むロスジェネ世代の多くが、インフレが続く中で、どの世代よりも実質賃金の低下がさらに大きいということであれば、現在の塗装市場の冷え込みは理解ができますし、今後の改善は到底期待できないとも言えるでしょう。

住宅塗装市場の低迷はしばらく続く

各種経済指標を中心に様々なデータを確認してきた結果、住宅塗装市場の低迷はしばらく続くものと想定しておくべきでしょう。足元の低迷の原因となっているインフレは、ウクライナや中東での紛争などに端を発した全世界的なインフレでもあり、このインフレをさらに促進させている超円安は日本経済が抱える構造的問題によるところが大きく、いずれにしても現在のインフレが改善する、もしくはインフレより実質賃金が上回り、市場に良い影響を及ぼしていくことはしばらく想像できないでしょう。

我々のメインマーケットとなる住宅塗装市場においては、インフレによる市況の低迷だけではなく、団塊世代の市場からの撤退による客層の変化、コロナ禍で加速したデジタルシフトなど、様々な課題を克服していく必要があります。

さらには、最も大きな構造的な変化として「住宅塗装市場は縮小し始めている」という事実があります。

市場規模のパイが小さくなることで、競争が益々激化していき、結果として、「住宅塗装専門店の大半は淘汰される流れに入った」と考えるべきではないでしょうか。 とは言え、パイが無くなることはありません。自らの市場での競合相手に勝ち続け、そして目の前の様々な課題を一つずつ解決しながら、前進をしていくしかないでしょう。

<2024年6月号アステックペイント定期発行物ホットラインより>

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このコラムの寄稿者と運営者

【コラム寄稿者】
株式会社アステックペイント
菅原 徹

【コラム寄稿者】
株式会社アステックペイント
菅原 徹

株式会社アステックペイント 代表取締役
2000年10月に株式会社アステックペイントを創業して以来、高付加価値な住宅用塗料の研究開発・製造・システムやアプリ開発・販促支援など、あらゆる角度から塗装業界の発展を目指し、事業展開している。

【運営会社】
株式会社アステックペイント

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株式会社アステックペイント

AP ONLINEを運営する株式会社アステックペイントは、建築用塗料を製造・販売する塗料メーカー。遮熱性、低汚染性に優れた高付加価値塗料の研究・開発の他、システム・販促支援など、塗装業界の課題解決につながる事業を展開。2020年以降、遮熱塗料国内メーカーシェアNo.1を連続獲得中。

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