顧客満足とカスタマーサクセス
最近の社会現象の一つとして、消費者がモノを購入する際に「所有か、利用か」という選択肢があることが当たり前になりつつあります。商品やサービスを、まとまった大きな支出をして「所有」するか、定額料金を支払い「利用」するかという選択で、現在は「利用」を選択する消費者が増えています。
このような動きの一部は、『サブスク(サブスクリプション)※』という言葉でよく聞くようになりました。定額料金で映画、音楽、本などが無制限に見られる「Amazonプライム」をはじめ、月定額での高級バックレンタルや野菜の定期宅配、定額で使えるアプリなど数多くのサービスが存在しています。
企業にとっての『カスタマーサクセス』の意義
購入時に大きな支出をする必要がなく、毎月利用料金を払い続けることで必要なサービスを納得して利用できるため、消費者にとってはありがたいビジネスモデルだと思います。
一方で企業側からすると、かなり厳しいビジネスモデルといえるでしょう。
今まではお客様の衝動的な感情を利用して大きな商品を購入してもらうことで、売上を確保できたかもしれません。また、販売後に顧客から多少不満が出ても、大きな問題になることは滅多にありませんでした。しかしサブスクモデルでは、期間あたり、顧客あたりの売上が少なく、多くの顧客に継続的に利用し続けてもらい売上を確保していく必要があります。
もし顧客が利用しているサービスに満足しなければ、瞬間的に利用を停止され、翌月から利用料金は支払われなくなってしまいます。
このように企業側にとって非常に厳しいサブスクモデルですが、成功している企業は収益の損益分岐点を超え始めると大きな利益を出し、同じサービスを提供している競合他社を急速に壊滅させるほどの大きな力を持つようになっています。
今後のカギを握る『カスタマーサクセス』
従来、塗装やリフォーム工事を行なうにあたって最大限努力すべきことは「顧客満足」の追求だったと思います。しかしながら、顧客が「所有」ではなく「利用」を選ぶ現在においては、「顧客満足」だけでは不十分で、「カスタマーサクセス(顧客の成功)」を実現しないと通用しないと言われています。
今回お伝えしたいことはカスタマーサクセスという概念を理解することが、とても重要だということです。
トヨタ自動車は「モビリティカンパニーへと変革する」と宣言しています。車を売るだけではなく、サブスクモデルの構築は当然のことながら、数多くある移動手段の中で様々な収益構造を作っていくという意思を示したことになります。これは、売上29兆円企業が今まで築いてきたビジネスモデルを大幅に変革しなければならないほどの時代になったとも言えるのでしょう。
従来は、良い商品やサービスを販売し、何か問題があればスピード感と誠実性を持って対応し、必要に応じて修理もしくは改善する「顧客満足型カスタマーサポート」で、十分な顧客満足を得ることができました。
一方で、「カスタマーサクセス」は、顧客が商品やサービスを通じて得たい成果や体験を実現できるよう顧客の利用状態や潜在的要望をデータで把握し、能動的に働きかけることで顧客を成功へと導いていくものです。顧客とのコミュニケーションの量を確保しながら課題の見える化と解決を行ない、顧客に数多くの成功体験をさせることで、顧客満足を遥かに超えるロイヤル顧客(その企業や商品が好きだから購入し続けてくれる顧客)にさせるような関係を構築していきます。
以前から、顧客満足を超えるロイヤル顧客という言葉はありましたが、顧客の選択が「所有」から「利用」に移行していく中で企業が生き残っていくための必要条件として、ようやく現実化してきたのではないでしょうか。
新規の顧客が永続的に湧いて出てくるような時代は既に過ぎ去り、今は市場規模が縮小していく時代です。さらに、インターネットの普及で顧客が簡単に情報を得られるようになったことで、圧倒的少数の勝者(No.1企業)が市場を総取りする時代になってきています。そのような中で、「カスタマーサクセス」という概念は、多くの業界にとって避けては通れない絶対的な命題になってきていると思います。
サブスクモデルで成功している企業は、顧客満足さえ高ければ、あとは顧客が勝手についてきてくれると希望的観測で待っているのではなく、一度お付き合いした既存顧客の離脱を可能な限りゼロに近づけ、継続的に購入してもらう取り組みと同時に、さらなる単価アップを実現するような取り組みを当たり前に実施しています。
※定額料金を支払うことで、商品やサービスを購入・利用できるビジネスモデル
(2020年1月発行 アステックホットライン169号の内容より)
【コラム寄稿】株式会社アステックペイント代表 菅原徹
菅原 徹(すがはら とおる)
株式会社アステックペイント代表取締役
2000年10月に株式会社アステックペイントを創業して以来、高付加価値な住宅用塗料の研究開発・製造・システムやアプリ開発・販促支援など、あらゆる角度から塗装業界の発展を目指し、事業展開している。
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