塗装工事現場で起きた「有機溶剤中毒」の事例と対策

現場の研究 性質 2024.10.15
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近年、全国での労働災害による死亡者・死傷者数は減少方向にある中で「建設業における労働災害発生件数」は依然として非常に多い状況です。そこで、今回の記事では、塗装現場で使用機会の多い溶剤塗料によって発生する有機溶剤中毒について、その危険性から対策まで詳しくご紹介いたします。

有機溶剤中毒とは

①有機溶剤とは

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※イメージ写真

有機溶剤とは、キシレンやトルエンなど、他の物質を溶かす性質を持つ有機質化合物の総称のことです。塗料では樹脂を溶かす、または希釈するための溶剤として使用されています。常温では液体ですが、一般的に揮発性が高いため蒸気となって体内に吸入されやすく、また、油脂を溶かすため、皮脂からも吸収されます。さらに、空気より重たく、換気が悪く有機溶剤が高濃度になった箇所では低いところに溜まりやすい等の特徴もあります。

これらの特徴から有機溶剤は適切な安全対策を講じないと作業者の健康被害を引き起こす可能性があります。

②有機溶剤中毒とは

有機溶剤中毒とは、有機溶剤を体内に吸収、吸入することで生じる疾患です。大きく分けると「急性中毒」・「慢性中毒」の2種類に分けられます。

  • 急性中毒

一時的に高濃度で大量の有機溶剤を吸収することで発生し、頭痛やめまい、意識喪失などの症状が表れます。意識喪失状態で高濃度の有機溶剤を吸収し続けると、最悪の場合、死に至る可能性があります。

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※イメージ写真
  • 慢性中毒

中長期的に一定レベル以上の溶剤を頻繁に吸収することで発生し、倦怠感や頭痛、めまい、皮膚炎などの症状が表れます。また、有機溶剤の種類によっては、肝臓や腎臓など特定の臓器に障害をもたらす可能性があります。

塗装工事現場での有機溶剤中毒の事故事例

①ベランダ防水作業中の有機溶剤中毒

項目事例概要
発生状況3階のベランダ防水工事中 ①強溶剤系の製品を使用し、その製品の蒸気がこもりやすい状況だった ②防毒マスクなどを使用せずに ③意識が薄れた状態で足場に移動しようとしたところ、足場とバルコニーの間の養生に気づかず、養生箇所に乗ってしまいそのまま転落  
被災状況3階建て(約10m)の高さから転落し、全身強打 (現場復帰するまで約2週間を要した)
事故原因・有機溶剤の蒸気がこもりやすい状態だった
・防毒マスクなどを使用しなかったこと

②屋根塗装工事中の有機溶剤中毒

項目事例概要
発生状況屋根塗装工事中 有機溶剤を含む塗料を屋根に塗布していたところ、有機溶剤の蒸気を吸い込んだため、休憩後に塗料を補充し、はしごで屋根に登る際、意識がもうろうとして地面に転落
事故原因・防毒マスクなどを使用しなかったこと

参考:厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei10/21.html

③マンションの改修工事中に有機溶剤中毒

項目事例概要
発生状況マンションの地下階段の踊り場付近塗装中 風通しが悪い地下にある階段の踊り場付近で、壁面に仕上材の吹付け作業を行っていたところ、塗装工1名が急性有機溶剤中毒で倒れ、さらにこれを救助しようとした同僚も同じく急性有機溶剤中毒により、意識障害を起こした
事故原因・局所排気装置、全体換気装置等を設けていなかった ・防毒マスクなどを使用しなかったこと。 ・閉所で有機溶剤の飛散の多い、吹付け塗装をしたこと。 ・有機溶剤作業主任者が選任されておらず、有機溶剤の有害性について知識がなかったこと

参考:厚生労働省(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=000700

有機溶剤中毒を未然に防ぐ対策

対策が不十分な場合、有機溶剤中毒になり最悪の場合、死に至る可能性があります。この章では、有機溶剤中毒を未然に防ぐための対策をご紹介いたします。

①SDS(安全データシート)・ラベルの確認

使用する溶剤塗料のSDSを必ず事前に確認し、含有される有機溶剤の種類や危険性を把握しましょう。

また、容器に記載されているラベルにも注意を払い、適切な取り扱い方法や注意事項を確認してください。

②保護具の着用

有機ガス用の防毒マスクや、状況に応じて送気マスクなどの適切な呼吸用保護具を着用してください。また、保護メガネや作業着、保護手袋など、その他の保護具も忘れずに使用しましょう。

有機溶剤を吸わない、直接触れないよう、SDSを確認し適切な保護具を着用してください。

③有機溶剤塗料の代替

可能な限り、水性塗料や低VOC塗料など、有機溶剤の使用量が少ない製品への切り替えを検討してください。これにより、作業者の健康リスクを大幅に低減できます。

④局所排気装置の設置

作業場所に局所排気装置を設置することで、有機溶剤の蒸気を効果的に除去できます。特に閉鎖的な空間での作業時には不可欠です。定期的なメンテナンスも忘れずに行ってください。

⑤全体換気

作業場全体の換気を十分に行うことで、有機溶剤の濃度を低く保つことができます。窓や扉を開けるだけでなく、必要に応じて換気扇やファンを使用して空気の流れを作りましょう。

これらの対策を実施することで、有機溶剤中毒のリスクを大幅に低減できます。作業者の安全と健康を守るため、今一度、現場での対策状況を見直してみてはいかがでしょうか。

有機溶剤中毒になってしまった場合の対処法

【有機溶剤中毒になった本人ができる対策】

①作業を中断し、風通しの良い場所に移動する
有機溶剤中毒の症状を感じた場合、まずは作業を中止し、速やかに新鮮な空気のある場所へ移動しましょう。
その際、可能な限り深呼吸を行い新鮮な空気を体内に取り込んでください。
②体に付着した溶剤塗料を洗い流す
溶剤が付着した衣服を脱ぎ、皮膚に付いた溶剤を大量の水で洗い流してください。
目に入った場合は、15分以上水で洗い流します。
③周囲の方に声掛けする
周囲に人がいる場合は、速やかに助けを求め、自分の状況を説明してください。この時、使用していた溶剤の種類や作業内容についても伝えることが大切です。
④安静にする
無理に動かず、安静にします。横になる場合は、気道確保のため、体を横向きにしましょう。
⑤医療機関を受診する
症状が軽度だと感じても、必ず医療機関を受診してください。有機溶剤中毒は時間が経過してから症状が悪化することもあるため、自己判断は避けてください。医療機関では、使用していた溶剤の種類や作業内容、症状の経過などを詳しく説明してください。

【有機溶剤中毒者を発見した方が実施する対策】

①被災者の安全確保を行う
有機溶剤中毒者を発見した場合、直ちに被災者を新鮮な空気のある場所に移動させてください。
この時、自身の安全も確保するため、適切な保護具を着用し、十分な換気を行ってから救助にあたることが重要です。
②救急要請
119番通報して救急車を要請してください。通報の際は、発生場所、被災者の状態、使用していた溶剤の種類などを正確に伝えましょう。
③応急処置
被災者の意識と呼吸を確認し、必要に応じて人工呼吸や心臓マッサージなどの救命処置を行ってください。
また、被災者の衣服が溶剤で汚染されている場合は脱がせ、皮膚に付着した溶剤を大量の水で洗い流してください。寒冷期は体温低下に注意し、毛布などで被災者を覆って保温します。
④情報収集
救急隊が到着するまでの間、使用していた溶剤の種類、作業内容、症状の経過などを可能な限り詳しく記録してください。これらの情報は適切な治療を行う上で非常に重要です。

まとめ

この記事では、塗装現場における有機溶剤中毒のリスクとその対策を、事故事例を交え、詳細に説明いたました。

有機溶剤中毒は深刻な健康問題や命の危険を招くため、有機溶剤を取り扱う場合は、その危険性を理解し、適切な予防措置を取って、安全な作業環境を実現しましょう。

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この記事の監修者と運営者

【記事監修】
株式会社アステックペイント 
谷口 智弘

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株式会社アステックペイント 
谷口 智弘

株式会社アステックペイント技術開発本部 本部長
住宅用塗料市場のマーケティング分析・品質管理を行う「商品企画管理室」、塗料の研究・開発を行う「技術開発部」、塗料の製造・生産・出荷を行う「生産部」の3事業部を統括するマネジャーとして、高付加価値塗料の研究・開発を行っている。

【運営会社】
株式会社アステックペイント

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株式会社アステックペイント

AP ONLINEを運営する株式会社アステックペイントは、建築用塗料を製造・販売する塗料メーカー。遮熱性、低汚染性に優れた高付加価値塗料の研究・開発の他、システム・販促支援など、塗装業界の課題解決につながる事業を展開。2020年以降、遮熱塗料国内メーカーシェアNo.1を連続獲得中。

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