【開発者インタビュー】エポパワーSS強化シーラー開発秘話


戸建て住宅の塗り替えは、一般的に10~15年ごとが目安とされています。しかし、建物の環境や部位によって劣化の進み方は異なり、日当たりの強さや気候などの影響で想定よりも早く劣化が現れるケースが少なくありません。
特に屋根は劣化要因である「紫外線」・「熱」・「水」に長時間さらされているため、外壁に比べて劣化しやすい条件にあります。
その屋根材の中でも、比較的吸水性が高いスレ―ト瓦が劣化をした場合、塗料の吸い込みを止めるため溶剤系下塗材を浸透させる必要があります。しかし、劣化が激しいスレート瓦に旧塗膜が残存している状態で弱溶剤系塗料を塗ると、溶剤の影響で旧塗膜が侵されてちぢれることがあります。
一方、水性塗料では旧塗膜を侵さないが、露出した素地表層を十分に浸透固着ができず、スレート素地表層から塗膜剥離が発生することがあります。
今回の記事では、著しく劣化したスレート瓦にも対応した水性形二液屋根用エポキシ系下塗材「エポパワーSS強化シーラー」の開発者である山田 凜さんへのインタビューを元に開発秘話について詳しくご紹介します。
目次
エポパワーSS強化シーラーとは

◯種別:水性形二液屋根用エポキシ系下塗材
〇特徴:高い浸透性・優れた固着性
特徴①高い浸透性
一般的な水性塗料では、樹脂が粒子として分散しているため下地に浸透しにくい傾向があります。一方、溶剤塗料では樹脂が溶剤に溶けているため、下地に浸透しやすい傾向があります。

なお、エポパワーSS強化シーラーは、水性塗料でありながら樹脂の粒子が極めて小さいため下地に容易に浸透します。これにより、エポパワーSS強化シーラーは、劣化したスレート瓦に対して溶剤塗料並みの高い浸透性を持っており、また水性のため既存塗膜を侵しません。

特徴②優れた固着性
エポパワーSS強化シーラーは、二液反応硬化塗料※のため、基材内部にまで塗料が浸透した後、高い固形分(樹脂分)でより強固な塗膜を形成します。
※二液反応硬化塗料とは、A液とB液を混ぜて化学反応で樹脂を結合させる塗料のことです。

エポパワーSS強化シーラーの製品紹介についてはこちらの記事もご覧ください。
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エポパワーSS強化シーラーが生まれた理由
スレート瓦は、新品の状態であれば一般水性シーラーで良好な付着性の結果が得られていたものの、実現場でのスレート瓦は想定以上に劣化している屋根もあり、一般水性シーラーは浸透固着不足により剥離が懸念されていました。
このような業界の課題の一つに対して、現場での課題を徹底的に分析し、解決できる新しい水性タイプの屋根用下塗材の開発に挑みました。
エポパワーSS強化シーラー開発ストーリー
私が本製品に携わったのは、入社5年目のときでした。
以前、「エポパワーシーラー(水性形一液屋根外壁用エポキシ系下塗材)」の開発を担当したこともあり、その経験が生かせると判断いただき本製品の担当に抜擢されました。
開発初期段階では、エポパワーシーラーで蓄積した技術を基に、一液タイプ特有の優れた作業性を活かしつつ、劣化の激しいスレート瓦への高い浸透固着性能の実現を目指しました。
劣化した下地の再現
本製品は一般的な屋根用下塗材とは異なり、軽微な劣化を含めた著しく劣化したスレート瓦までを対象としています。しかし、試験を実施するにあたり、劣化した既存下地の状態を再現できず、比較的強度が低いケイ酸カルシウム板を用いたり、現場を想定した劣化下地の準備に時間を使いました。幸い、加盟店の協力により著しく劣化したスレート瓦下地を入手できたことで、弱溶剤塗料との比較検討が容易となり、開発を効率的に進めることができました。

水性形二液タイプへの変更
開発を進める中で、水性形一液外壁用エポキシ系下塗材「エポパワーシーラー」を含めた再三の試験から水性一液タイプでは目標とする浸透固着性能の達成が難しいことが判明し、水性形二液タイプ(反応硬化タイプ)へ舵を切りました。そこで、当社の水性形二液モニエル瓦用エポキシ系下塗材「モニエルパワープライマー」の仕様拡大の可能性についても検討しました。
※モニエル瓦とは、モルタルを押出し成型し、表面に着色スラリー層というセメントと色粉を混ぜた着色材を厚め(約1mm厚)に吹き付け、さらにその上をアクリル樹脂系のクリヤー塗料で塗装して作られた瓦のこと

しかし、モニエルパワープライマーはスラリー層内部への浸透を目的としているため、多量に塗布する必要がある製品となっており、この特性により、スレート瓦の突き付け部から下塗材が入り込み、縁を埋めてしまうリスクが懸念されました。
このような製品特性の違いから、既存のモニエルパワープライマーの仕様拡大は断念して、特化した新製品として開発を進めることを余儀なくされました。
水性形二液タイプの扱い方
スレート瓦に特化した水性形二液タイプへの移行により、その基礎特性の理解から始めることとなりました。具体的には、スレート瓦の表面温度や気温により、下塗材の浸透深さや硬化時間に及ぼす影響や、実際の屋根環境を想定した性能評価など様々な技術課題の解決に取り組みました。
さらに、二液タイプの採用により、下地への浸透固着や上塗材との密着性に加え、A液とB液の混合安定性※も必要となり、目標とする塗料特性の実現に苦労しました。初めての水性形二液屋根用下塗材でもあり苦戦しましたが約3年の開発期間をかけ、2024年7月に無事製品化することが出来ました。
※混合安定性とは、A液とB液を混合し放置後も分離が起こらないこと。
実現場での最終試験
今回は社員宅の10数年が経過したスレート屋根をお借りして現場での最終試験を実施しました。これまでの苦労が実り、ローラー作業性・塗膜の付着性・仕上がりにおいて、弱溶剤下塗材と遜色ない結果が得られました。
その後の製品開発について

現在、主に若手開発者のサポート業務に携わっています。これまでの製品開発で培った経験や知識を共有し、現場を意識した製品開発ができる次世代の人材育成に注力してまいります。
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この記事の監修者と運営者

【記事監修】
株式会社アステックペイント
谷口 智弘
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株式会社アステックペイント
谷口 智弘
株式会社アステックペイント技術開発本部 本部長
住宅用塗料市場のマーケティング分析・品質管理を行う「商品企画管理室」、塗料の研究・開発を行う「技術開発部」、塗料の製造・生産・出荷を行う「生産部」の3事業部を統括するマネジャーとして、高付加価値塗料の研究・開発を行っている。

【運営会社】
株式会社アステックペイント
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株式会社アステックペイント
AP ONLINEを運営する株式会社アステックペイントは、建築用塗料を製造・販売する塗料メーカー。遮熱性、低汚染性に優れた高付加価値塗料の研究・開発の他、システム・販促支援など、塗装業界の課題解決につながる事業を展開。2020年以降、遮熱塗料国内メーカーシェアNo.1を連続獲得中。