平板スレート屋根に発生する「エフロレッセンス」の発生原因と対策方法を解説
戸建て住宅の屋根で白い汚染物を目にした経験はありませんか?この白い汚染物は「エフロレッセンス(白華現象)」と言います。今回の記事では、平板スレート屋根に発生するエフロレッセンスについて、発生のメカニズムと、その改修方法および事前対策について詳しく解説します。
※白華現象を、以下「エフロレッセンス」と表記します。
目次
平板スレート屋根に発生するエフロレッセンス
平板スレート屋根とは?
平板スレート屋根はセメントと繊維を主材料とするスレート瓦で構成されており、「平型化粧スレート」や「カラーベスト」、「コロニアル」とも呼ばれています。特徴としては、厚さが約5mm程度で軽量なため、地震に強いとされています。また、セメント瓦に比べて費用が安くメンテナンスも容易であるため、戸建て住宅において最も普及している屋根材といえます。
しかし、スレート瓦はセメント系建材であるため、吸水しやすい特徴があります。そのため、スレート瓦表面のコーティングや塗膜によって防水機能を持たせています。この表面コーティングの劣化とともに、防水機能も低下していくため、定期的な塗装工事が必要です。
この平板スレート屋根の塗装時にエフロレッセンスを発見したり、塗装から数年後にエフロレッセンスが発生する場合があります。
それでは、なぜエフロレッセンスは発生するのでしょうか?そのメカニズムについて説明していきます。
エフロレッセンスの発生メカニズム
エフロレッセンスは以下の流れで発生します。
①平板スレート屋根裏側への水の滞留
平板スレート屋根はスレート瓦を重ねて仕上げる構造のため、スレート瓦の付けつけ部から雨が浸入することがあります。この浸入した雨水を排出するためには、平板スレート屋根の小口部分である縁(下端部)に隙間が必要です。しかし、スレート瓦の自重や塗装の際に小口部分を塗料で埋めてしまうと、浸入した水がスレート瓦の裏面に滞留してしまいます。
②水酸化カルシウム溶液の流出
平板スレート屋根の裏側に雨水が滞留すると、スレート瓦の主成分であるセメント中のカルシウム成分が雨水に溶けて水酸化カルシウム溶液になります。
水酸化カルシウム溶液は、雨水と共に突き付け部からあふれ出し、スレート瓦の表面に付着します。
③二酸化炭素との反応によるエフロレッセンスの発生
水酸化カルシウム溶液は、空気中の二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムとなり、平板スレート屋根の表面に白い汚染物として付着します。このようなメカニズムによってエフロレッセンスが発生します。
エフロレッセンス発生した際の対処方法
エフロレッセンス発生時の改修方法
塗装工事 | 葺き替え工事 | カバー工事 | |
施工方法 | 高圧洗浄やケレン等でエフロレッセンスを除去し、塗装工事を行う。 | 野地板やアスファルトルーフィングの交換・補修を行い、新しく屋根を作る。 | 既存の屋根材の上からアスファルトルーフィングと新しい屋根材でカバーする。 |
メリット | ・通常の塗装作業と同様である。 ・工事費用が他と比べて安価である。 | 屋根の不具合を根本的に解決することができる。 | 葺き替え工事に比べて、工事中の降雨対策が不要で、解体作業もないため、短期間かつリーズナブルに工事ができる。 |
デメリット | 塗装工事をしてもエフロレッセンスの発生を止めることはできない場合もある。 | ・最も工事費用が高い。 ・葺き替え中の降雨対策や産業廃棄物の処理費用も発生する。 | ・塗装工事よりも費用が高い。 ・屋根の重量が増え、耐震性能が低下する可能性がある。 |
このように改修方法によってメリット・デメリットがあるため、場面や状況に応じて適切な選定が必要になります。
葺き替え工事・カバー工事の必要性
なぜ、塗装工事をしてもエフロレッセンスの発生を止めることはできないのでしょうか。
その理由としては、平板スレート屋根の構造上、突き付け部を完全に塗料で埋めることは困難で、水の浸入にともないスレート瓦の裏面に染み込みます。そして、徐々にエフロレッセンスの元となる水酸化カルシウム水溶液が流れ出してきます。そのため、塗装工事を行っても経年によってエフロレッセンスが発生する可能性があり、根本的に発生を防ぐためには、カバー工法や葺き替え工事を選択する必要があります。 また、突き付け部から浸入した雨水を排出するための小口を埋めてしまうと、スレート瓦の裏面に雨水が溜まってしまい、スレート屋根を止めている釘を伝って、屋根裏に雨水が浸入する恐れもあります。
改修方法別アステックペイントおすすめ製品の紹介
■塗装の場合:下塗り材サーモテックシーラー
サーモテックシーラーはアステックペイントが販売する「高浸透固着性」「遮熱性」の機能を有する屋根・外壁下地に幅広く適応可能な使いやすい下塗材です。遮熱効果のある上塗材と組み合わせることで、日射反射率※1を向上させ、より高い遮熱効果を期待できます。
※1:塗膜の劣化要因である、太陽光の近赤外領域の光を反射する割合のこと。
■カバー工法の場合:シーガード
シーガードはアステックペイントでも取り扱っている、株式会社オークマが販売している平板スレート専用カバー工法屋根材です。重度に劣化した平板スレート瓦やノンアスベストスレート瓦などを塗装以外の方法で改修する際、「自社でカバー工法を行いたい」「屋根工事の提案の幅を広げたい」とお考えの方にご使用いただける製品です。
関連記事エフロレッセンスの事前対策
ここまで改修方法についてお伝えをしてきましたが、本章からはエフロレッセンスを抑制するための事前対策について、ご説明していきます。
1章でエフロレッセンスのメカニズムを説明してきました。エフロレッセンスはセメント成分・水・空気によって発生する現象であり、平板スレート屋根の縁が詰まっている・いないに関わらず、エフロレッセンスの原因となる水酸化カルシウム水溶液は流れ出ています。
しかし、縁が詰まっていると、平板スレート屋根の裏に水酸化カルシウム水溶液が滞留し、突き付け部からあふれ出て、エフロレッセンスが目立ちやすくなります。このエフロレッセンスを抑制させるためには、水の抜け道となる小口部分の隙間を確保することが重要になります。
エフロレッセンスを抑制!事前対策を紹介
●皮スキ・カッターを用いた方法
塗装後、小口部分が塗料で埋まってしまった場合、皮スキやカッターを差し込むことで隙間を確保することができます。これが縁切り作業です。皮スキやカッターがあれば作業が可能になりますが、カッターは刃が入りにくく、皮スキでの作業は力を入れてスレート瓦を持ち上げるため、割れてしまう恐れがあります。
●タスペーサーを用いた方法
「タスペーサー」とは、スレート瓦の縁切り作業に使用する専用部材のことです。スレート瓦の重なり部分に挿入するだけで、スレート瓦を傷つけることなく、手軽に縁切りを行うことができるという特徴があります。
関連記事タスペーサーに関する注意事項
縁切り作業はタスペーサーでまかなえる万能な部材だと思ってしまうかもしれませんが、実は使えない場面もあります。本章ではタスペーサーに関する注意事項として、「ノンアスベストのスレート瓦の改修」についてと、「その他、タスペーサー使用上の注意事項」についてご説明します。
●ノンアスベストのスレート瓦の改修について
まず、ノンアスベストのスレート瓦とは、原料にアスベスト(石綿)を含まないスレート瓦のことです。特に1990年代後半から2008年※2にかけて製造されていた一部のノンアスベストのスレート瓦は、経年劣化で脆く割れやすいものもあります。一例として、「アーバニー」という種類のスレート瓦は、脆く割れやすいことに加えて約20cm間隔のスリットが入っており、力の逃げ道が制限されるため、タスペーサーを挿入すると割れてしまう場合もあります。
その他にも、脆く割れやすいスレート瓦もあるため、カッターや皮スキによる縁切り作業を行う選択することもあります。
※2:2008年9月1日以降、アスベスト含有製品の製造・使用等が全面禁止されています。
●使用上の注意事項Q&A
Q.平板スレート屋根の塗装工事において、経年劣化によって反っているスレート瓦がありますが、そのような状況でもタスペーサーの挿入は必要でしょうか?
Q. 平板スレート屋根の塗装工事において、経年劣化によって反っているスレート瓦がありますが、そのような状況でもタスペーサーの挿入は必要でしょうか?
A. スレート瓦とスレート瓦の間に4mm以上の隙間がある場合は、タスペーサーを差し込んでも抜けてしまうため不要になります。
Q.平板スレート屋根にタスペーサーを差し込むタイミングは、いつですか?
A.タスペーサーの01タイプは下塗材の塗装前、02タイプは下塗材の塗装後を推奨します。
Q.何寸勾配の平板スレート屋根の物件で使用できますか?
A.3寸から10寸です。3寸未満でタスペーサーを挿入すると雨の吹込みが懸念されます。
Q.屋根の板金部付近の短いスレート瓦の場合、タスペーサーを挿入できますか?
A.板金部から20cm以上の幅が確保できれば、挿入可能です。
まとめ
今回の記事では、平板スレート屋根で発生するエフロレッセンスのメカニズムとその改修方法および事前対策についてご紹介しました。エフロレッセンスは建材の劣化症状ではなく、セメント系建材特有の現象です。エフロレッセンスによって、屋根の美観を損ねてしまいます。
エフロレッセンスの発生を抑制するためにも、必ず縁切り作業を行ってください。また、縁切り作業の効率化のためにもタスペーサーの使用を検討していただければと思います。
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この記事の監修者と運営者
【記事監修】
株式会社アステックペイント
谷口 智弘
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谷口 智弘
株式会社アステックペイント技術開発本部 本部長
住宅用塗料市場のマーケティング分析・品質管理を行う「商品企画管理室」、塗料の研究・開発を行う「技術開発部」、塗料の製造・生産・出荷を行う「生産部」の3事業部を統括するマネジャーとして、高付加価値塗料の研究・開発を行っている。
【運営会社】
株式会社アステックペイント
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AP ONLINEを運営する株式会社アステックペイントは、建築用塗料を製造・販売する塗料メーカー。遮熱性、低汚染性に優れた高付加価値塗料の研究・開発の他、システム・販促支援など、塗装業界の課題解決につながる事業を展開。2020年以降、遮熱塗料国内メーカーシェアNo.1を連続獲得中。