【法改正のポイント】石綿の飛散防止対策が必要な工事現場を詳しく解説


石綿(アスベスト)による健康被害の防止を目的として、現在は石綿含有建材の使用が全面禁止されています。
また、石綿の使用が禁止される以前に、石綿含有建材を使用して建てられた建物の改修工事を行う場合にも、あらゆる石綿対策が必要です。
しかし、一言で石綿対策と言っても「どのような工事で石綿の飛散防止対策が必要になるのか分からない」という方が多いのではないでしょうか。
そこで、本記事では、戸建住宅の塗装工事や葺き替え工事などにおいて、どの工事でどんな対応が必要となるのか、具体事例を交えながら解説します。
目次
法改正の概要

石綿(アスベスト)は微細な繊維状の鉱物で、法令で規制されるまで建材等の原材料として幅広く使用されていました。
しかし石綿を吸い込むことで肺がん等の原因になることから、2006年より石綿を含む建材の工事を行う場合、石綿飛散防止対策が義務付けられています。
また、石綿含有建材の処理についても段階的に規制が強化されており、2021年よりレベル3の石綿含有建材(建築物の屋根材・外壁材)も規制が拡大されたことで、戸建住宅等の改修工事においても事前調査等が必要となりました。
そこで、まずは今回の法改正のポイントをご紹介いたします。
施行日 | 要点 | 法改正の主なポイント |
2021年4月 | 石綿含有建材レベル3(※)も規制対象に追加※住宅屋根用化粧スレート・窯業系サイディング・ロックウール吸音天井板などが該当 | 規制対象ではなかった石綿含有建材もレベル3の対象となり、作業基準の遵守が必要になる。 |
刑事罰の適用 | 適切な飛散防止対策を講じずに作業を行った場合、刑事罰が適用される。 | |
元請業者 および 自主施工者だけでなく、下請業者も刑事罰の対象となる。 | ||
2022年4月 | 建物の事前調査および調査結果の報告が義務化 | 石綿含有建材の有無にかかわらず、全ての建物で事前調査が必要になる。 |
100万円以上の工事は労働基準監督署・自治体への報告義務がある。 | ||
全ての工事でお客様への調査結果の報告義務がある。 | ||
2023年10月 | 有資格者による事前調査が義務化 | 建築物石綿含有建材調査者の資格者による事前調査が必要になる。 |
石綿飛散防止対策が必要か判断する工事

前章でお伝えした法改正によると、次の2項目両方に該当する場合、石綿飛散防止対策が必要か、判断しなければなりません。
①事前調査の結果、石綿含有建材、もしくは石綿含有とみなされる建材に対する工事
【参考:最も簡易な調査方法】簡易的な事前調査方法として、「2006年9月以降に着工したか否かを調べる方法」があります。
建物の種類 | 飛散防止対策の要否 |
2006年9月以降に着工したことが明らかな建物 | 石綿を含有していない建材が明らかなので、飛散防止対策は不要となります。 |
2006年9月以前に着工された建物 | 石綿を含有している建材が使用されている可能性があるため、飛散防止対策が必要となります。 |
着工時期は、主に以下の方法で調べることができます。
①建築確認申請書の申請日付が2006年9月1日以降となっている
②建築確認済証の交付日が2006年9月1日以降となっている
③建物の登記事項証明書(登記簿)で判断する
※一般住宅の場合、2007年以降に新築の日付が記載されていれば2006年9月以降と推察できます。
※他人が所有している物件でも、法務局にて誰でも登記事項証明書の取得が可能です。
※「登記事項証明書の取得方法」は、下記URLをご確認ください。https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/online_syoumei_annai.html
※建材の分析機関による分析調査の結果、全ての建材に石綿が含有していないことが判明した場合の石綿対策は不要です。
②飛散リスクがある工事
飛散リスクがある工事対象となる工事内容:粉じんが発生する作業(ケレン・Uカット(Vカット)・切断・撤去ほか)
このように、石綿含有建材もしくは石綿含有とみなされる建材に対して、飛散リスクがある工事をする場合は、石綿飛散防止対策として「周囲への石綿の粉じん飛散防止措置」と「作業者の石綿の粉じんばく露防止措置」が必要となります。
そのため、石綿作業主任者による指揮の下で、石綿取扱い作業特別教育修了者による作業を行うこととなります。
作業内容については、「石綿粉じん飛散防止処理技術指針」をご参照ください。
https://www.nsk-web.org/as/as20160613.pdf
石綿飛散防止対策が必要な工事、不要な工事の具体例

石綿含有建材もしくは石綿含有とみなした建材の場合、飛散リスクがある工事を行うと石綿飛散防止対策が必要になります。
この章では、改修工事の中でも塗装工事の工程ごとに石綿飛散防止対策が必要な場合と、不要な場合の判断基準をご紹介いたします。
①高圧水洗工法(高圧洗浄工法)
具体的な工事内容 | 石綿の飛散対策の要否 |
外壁や屋根の建材の表面の汚れを除去する(表層の洗浄のみ)場合 |
石綿の飛散はないので石綿飛散防止対策は不要とされています。 |
部分的に劣化が見られる場合に、劣化箇所の旧塗膜の脆弱部分のみを除去する場合 |
石綿の飛散はないので石綿飛散防止対策は不要とされています。(ただし、洗浄の水圧が15MPa以下で、除去される上塗材に石綿が含有していない場合) |
外壁表面の既存塗膜(吹付け仕上塗材)を除去する場合 |
既存の下塗材や外壁材の表面まで除去する場合、既存の上塗材に石綿が含有している場合は石綿の飛散が想定されるので石綿飛散防止対策が必要になります。 石綿繊維の飛散や周辺作業者へのばく露を防ぐため、作業場の周囲及び上下をビニールシート等で囲うこと。詳しくは、各省庁が公開している資料にもとづき対策を講じる必要があります。 |
石綿が含有していることが明らかなスレート瓦を洗浄する場合 |
劣化が進行している瓦の表面に高圧水洗工法を行った場合、スレート瓦に含まれる石綿を飛散させる可能性が高いので、工事前に石綿飛散の可能性について十分に検討することが必要です。 |
※「石綿粉じん飛散防止処理技術指針」では石綿を飛散させない高圧水洗工法の水圧は15MPa以下としています。
②下地補修・下地処理
具体的な工事内容 | 石綿の飛散対策の要否 |
ひび割れ補修(カットシーリング工法) |
グラインダーなどの電動工具で石綿含有建材を削る場合は、石綿飛散防止対策が必要となります。石綿飛散防止対策として、隔離養生やHEPAフィルター付き真空掃除機での集塵などが必要です。(電動工具を用いた切断、穴開けなどの作業を含む場合も同様の対策が必要です。) |
③塗装作業
具体的な工事内容 | 石綿の飛散対策の要否 |
既存の塗装の上に新たに塗装する作業 |
石綿の飛散はないので石綿飛散防止対策は不要とされています。ただし、塗装前の工程で石綿を飛散させる可能性がある場合は、石綿飛散防止対策が必要です。 |
④屋根や外壁のカバー工法
具体的な工事内容 | 石綿の飛散対策の要否 |
石綿含有建材の撤去を伴わない場合 |
石綿の飛散がないので石綿飛散防止対策は不要とされています。(撤去が必要な棟板金などは金属で石綿を含有していないことは明らかなため) |
棟材などに瓦と同質の建材が使用されていて石綿を含有している場合 |
石綿飛散防止対策が必要となります。この場合は手作業で撤去し、切断や破砕を行わないこと、撤去した廃材を特別管理廃棄物として処分することなどが必要です。 |
⑤屋根の葺き替え、外壁の張り替え
具体的な工事内容 | 石綿の飛散対策の要否 |
屋根の葺き替え、外壁の張り替え |
既存の建材を撤去し、処分するため、石綿飛散防止対策が必要となります。主な対策としては手作業による撤去、撤去した廃材を特別管理産業廃棄物として処分すること等です。 外壁の張り替えの場合、撤去する建材のサイズが大きく、運搬のために裁断が必要になることがあります。裁断の際に石綿が飛散する恐れがあるので、石綿飛散防止対策が必要となります。 |
まとめ
今回は、石綿含有建材の事前調査や石綿飛散防止対策に関する法改正の概要と、石綿飛散防止対策が必要な工事と不要な工事についてご紹介いたしました。
ここまでお伝えしたように塗装工事やカバー工法などの工事においても、石綿の飛散防止対策が必要な場合があります。
石綿の調査および改修工事の方法について、より正確で詳細な情報をお知りになりたい場合は、お手数ですが施工現場を管轄する市区町村役場や労働基準監督署までお問い合わせ下さい。
※石綿の対策には、資格取得や登録等の準備が必要です。準備がお済みでない方は、こちらの記事を参考に、早めの準備をお願いいたします。
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【引用文献】
「建築物の改修・解体時における石綿含有建築用仕上塗材からの石綿粉じん飛散防止処理技術指針」(平成28年4月28日 国立研究開発法人建築研究所・日本建築仕上材工業会)
※本文中では「石綿粉じん飛散防止処理技術指針」と表記します。
https://www.nsk-web.org/as/as20160613.pdf
「石綿障害予防規則等の一部を改正する省令等の施行について」(令和2年8月8日 厚生労働省労働基準局長 基発0804第8号)
https://jsite.mhlw.go.jp/aomori-roudoukyoku/content/contents/000729862.pdf