【消防法に注意】火災事故を防ぐ!正しい有機溶剤塗料の保管方法とは?
最近の全国ニュースでも、塗装会社倉庫で発生した火災事故が報道されています。
塗料倉庫を管理している多くの方が、有機溶剤塗料(以下、溶剤塗料)を含む危険物の保管方法や取り扱いについて、頭を悩まされているのではないでしょうか?
「自社で保管できる溶剤塗料の数量が把握できていない」、「危険物の指定数量を超えているため、塗料の処分、危険物倉庫の設置を考えなければならない」など数多く課題があると思います。
今回は、危険物を保管できる数量の算出方法、指定数量以上の危険物貯蔵方法ほか、法令に定められている適正な溶剤塗料の保管方法をご紹介いたします。
目次
火災の原因になる「危険物」とは?
危険物とは、火災、爆発などを引き起こす危険性のある物質を指します。
塗装では「溶剤塗料」が消防法での危険物に該当します。
消防法は、「火災の予防・警戒・鎮圧による生命・身体・財産の保護・被害軽減」を目的として定められた法律です。消防法第2条第7項では、危険物を「火災を発生させる危険性の高い物質」と定義し、保管方法や運搬方法を厳密に定めています。
消防法令に違反して危険物を貯蔵し取扱う場合、行政指導や行政処分(除去命令等)の対象となります。行政処分に反した場合は罰則が適用される場合があります。
「危険物」に該当する溶剤塗料について
危険物に該当する溶剤塗料は、ほぼ全てに引火点があり、消防法の第4類引火性液体に該当します。
引火すると燃え広がる性質があるため、災害の規模が大きくなる恐れがあります。
常温では液体ですが、一般に揮発性が高いため、蒸気となって作業者の呼吸を通じて体内に吸収されやすく、また、皮膚からも吸収されるため、取扱いに注意が必要です。
塗装業を営む多くの方が悩まれる課題が、この溶剤塗料の保管です。
保管する量によっては、危険物倉庫の検討が必要となります。
溶剤塗料を含む危険物を保管できる数量算出の指標が、消防法にある「指定数量」です。
消防法で定められた数量指定
指定数量とは、消防法第9条の4「危険物についてその危険性を勘案して政令で定める数量」。
指定数量は消防法で危険物の種類ごとに、その危険性などを考慮して保管できる量を定めています。
引火性の高いものほど指定数量の値は低くなります。
第4類引火性液体の指定数量
【参考】
主にラッカーやシンナー類は「第4類第1石油類」、「第4類第2石油類」、
屋根・外壁で使用される溶剤系下塗り塗料、上塗り塗料は「第4類第2石油類」 「第4類第3石油類」の非水溶性液体に分類されます。
※種別がわからない場合は、製品缶ラベル、SDSもしくは塗料メーカーにご確認ください。
危険物の指定数量による規制
規制基準 | 規制の有無 | 届け出 | 備考[必要項目] |
①指定数量以上 | 消防法 | 消防署 | 「危険物倉庫」への保管 「危険物取扱者」が必要 |
②指定数量の1/5以上~ 指定数量未満(少量危険物) | 自治体の条例 | 消防署 ※一般的に必要 | 管轄する市町村の条例を確認 |
③指定数量の1/5未満 (少量危険物未満) | 自治体の条例 | 不要 | 管轄する市町村の条例を確認 |
溶剤塗料を含む有機溶剤(危険物)を保管する量で、規制される法令や届け出先が異なります。
①指定数量の倍数が「指定数量の1倍以上」の場合
少量危険物の倉庫で保管できる数量をオーバーしているため、溶剤塗料の廃棄を行い、指定数量以下にする。
もしくは危険物倉庫への保管が必要になります。
消防法に基づいて規制(消火設備の設置 、種類・数量の届け出、管理者の選任、定期点検の実施など)される対象となります。
管轄の消防署長への届け、許可を得る必要があります。
貯蔵・取扱いは以下の条件が発生します。
・該当する資格を持つ危険物取扱者が必要
溶剤塗料の場合は「危険物乙種4類」や「危険物甲種」の資格取得者
・消防法に基づいて管轄の消防署長への申請、許可を得ること
・許可を得た(基準を満たす設備)貯蔵所で取り扱うこと
※貯蔵所=塗料の危険物倉庫
②指定数量の倍数が「1/5(0.2)以上‐指定数量の1倍未満」の場合
「少量危険物」になります。
少量危険物とは、通常の危険物よりも規制が厳しくなり、個人の住居であれば保管量が半減します。
その取扱い規制は、自治体ごとで定めている条例に従って管理しなければなりません。
該当する自治体の規定をご確認ください。
③指定数量の倍数が「1/5(0.2)未満」の場合
「少量危険物未満」になります。
消防署への届け出は不要ですが、保管量はかなり少量になります。
普通の倉庫(冷暗所)で保管することが可能です。
(例)福岡県 春日・大野城・那珂川消防組合火災予防条例 の場合
貯蔵・取扱いの基準(指定数量未満)
危険物を貯蔵・取扱う場所では、数量に関わらず、次のような規制があります。
⑴ みだりに火気を使用しない。
⑵ 常に整理及び清掃を行うとともに、みだりに空箱その他不要な物件を置かない。
⑶ 危険物が漏れ、あふれ、又は飛散しないようにする。
⑷ 容器は、危険物の性質に適応し、かつ破損、腐食等がないものを使用する。
⑸ 容器は、みだりに転倒、落下等粗暴な行為をしない。
⑹ 容器は、地震等により容易に転落、転倒又は落下物により損傷を受けないような措置を講ずる。
※各自治体によって数量の基準などが異なる場合があります。
また、地域の消防本部が定めている「火災予防条例」の遵守が必要となるため、確認しておきましょう。
指定数量の倍数 計算式
危険物を貯蔵する量 / 危険物の指定数量 = 指定数量の倍数
<計算のルール>
・品名が異なる危険物を同一の場所で貯蔵・取扱う場合は、合算となります。
・内容量表示が「kg」の入り目で表記がされている場合は、
重さ「kg」÷ 比重で量「L」に換算してから、指定数量の倍数を計算
※塗料の比重が分からない場合はSDSもしくは塗料メーカーにご確認ください。
・全ての容器は残存量、有機溶剤の含有率に関わらず、一律満量で計算します。
▶ 一斗缶(満量:18L)の半分しか入っていない場合 :9Lではなく、 18Lとして計算
▶ 一斗缶(満量:18L)で有機溶剤の含有率10%の場合:1.8Lではなく、18Lとして計算
計算例
「第4類第1石油類」の塗料用ラッカーシンナー保管の場合
貯蔵する量 / 指定数量 = 合計
20L / 200L = 0.1
➡③指定数量の1/5(0.2)未満(少量危険物未満)
100L / 200L = 0.5
➡②指定数量の1/5(0.2)以上~指定数量1未満(少量危険物)
200L / 200L = 1
➡①指定数量1以上
「第4類第1石油類」非水溶性液体 +「第4類第2石油類」非水溶性液体の場合
※塗料用シンナー90L +合成樹脂エナメル塗料500L
(90L / 200L)+(500 / 1000)= 合計
0.45 + 0.5 = 0.95
➡合計が0.95
②指定数量の1/5(0.2)以上~指定数量1未満(少量危険物) に該当
自動計算ツールのご紹介
産業標識・銘板作成の株式会社石井マークさんが「指定数量の倍数計算ができる簡易補助ツール(EXCEL)」を提供されています。
※使用は自己責任になります。ご興味のある方はご確認ください。
指定数量以上の危険物貯蔵の対応
溶剤塗料を含む危険物を保管する量が、指定数量の倍数「指定数量の1倍以上」の場合は、
以下のいずれかの対応が必要となります。
①整理整頓・廃棄を行い、少量危険物未満にする。
②危険物倉庫を設ける。
③近隣の危険物倉庫を借りる。
④危険物の余剰在庫を持たない。
⑤危険物を複数の敷地に分割する。 など
危険物倉庫
消防法第10条「指定数量以上の危険物は、貯蔵所以外の場所でこれを貯蔵し、又は製造所、貯蔵所及び取扱所以外の場所でこれを取り扱ってはならない。」
危険物倉庫とは、火災や爆発などを起こす恐れがある法令で指定された危険物を保管する「貯蔵所」を指します。
屋内貯蔵所(以下、危険物倉庫)の設置は、一般的な倉庫や物置とは異なり、危険物を保管するため、消防法で定められた設置基準(設置する位置や、規模・構造・設備ほか)を遵守する必要があります。
危険物倉庫 設置の流れ
消防署の協力を得ながら、以下の流れで手続き、工事が進みます。
1.管轄消防署との事前協議
2.危険物倉庫設置許可の申請
➡倉庫を設置する所在地の消防署へ
3.設置許可書の受領
4.危険物倉庫の工事着工
※中間検査(必要に応じて実施)
5.危険物倉庫の完成
➡完成後に消防署へ検査を依頼
6.完成検査
7.検査合格後、完成検査済証 受領
危険物倉庫の「位置」と「規模・構造」の基準
倉庫の設置にあたり、以下の基準を満たす必要があります。
▷位置の基準
・近隣に学校や病院などの「保安対象物」があれば、施設に応じた保安距離を確保する。
・倉庫の構造や、危険物の貯蔵量(指定数量倍数)に応じ、保有空地を確保する。
▷保有空地に対する幅の基準(例)
※保有空地:火災が発生した場合でも、迅速な消火活動を行えるようにするための空地。
且つ、火が周辺の建物や木々などに燃え移らないようするための空地を指す。
指定数量の倍数 | 空地の幅 (当該建築物の壁・柱・床が耐火構造の場合) | 空地の幅 (左欄以外の場合) |
5倍以下 | - | 0.5m以上 |
5倍を超え10倍以下 | 1m以上 | 1.5m以上 |
10倍を超え20倍以下 | 2m以上 | 3m以上 |
20倍を超え50倍以下 | 3m以上 | 5m以上 |
50倍を超え200倍以下 | 5m以上 | 10m以上 |
200倍超え | 10m以上 | 15m以上 |
▷危険物の屋内貯蔵所の規模・構造・設備の基準(例)
・床面積1000㎡以内、軒の高さ6m以内の平屋
・屋根は軽量な金属板などの不燃材料でふき、天井を設けてはいけない
・梁は不燃材料を用いる
・壁・柱・床は耐火構造
・窓、出入口は防火設備であり、窓ガラスには網目入りガラスを用いる
・危険物が浸透しない構造の床、床は少し斜めに漏れた危険物をためられる溝をつくる
・貯留設備を設ける
・屋内貯蔵所である旨を表示した標識、「火気厳禁」等、防火に関し必要な事項を
掲示した掲示板を設ける
・危険物を貯蔵・取り扱うために必要な採光・照明を確保する
(使用状況によって、避雷設備、換気設備や排出設備を設ける)
・消火設備を設ける
危険物倉庫を設置される場合は、消防法の細かい規定も多いため、随時、最寄りの消防署予防担当部署に相談されて、準備することをオススメいたします。
まとめ
今回は、溶剤塗料(危険物)の保管について説明しました。
消防法や火災予防条例など、法令の文面だけでは分かりづらいこともあると思います。
また、この説明だけでは情報が不足している場合もあります。
溶剤塗料の保管で分からない時は、些細なことでも管轄消防署に相談することが得策です。
職場の安心安全のため、危険物について学び、適正に溶剤塗料を保管していきましょう。
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この記事の監修者と運営者
【記事監修】
株式会社アステックペイント
谷口 智弘
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谷口 智弘
株式会社アステックペイント技術開発本部 本部長
住宅用塗料市場のマーケティング分析・品質管理を行う「商品企画管理室」、塗料の研究・開発を行う「技術開発部」、塗料の製造・生産・出荷を行う「生産部」の3事業部を統括するマネジャーとして、高付加価値塗料の研究・開発を行っている。
【運営会社】
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AP ONLINEを運営する株式会社アステックペイントは、建築用塗料を製造・販売する塗料メーカー。遮熱性、低汚染性に優れた高付加価値塗料の研究・開発の他、システム・販促支援など、塗装業界の課題解決につながる事業を展開。2020年以降、遮熱塗料国内メーカーシェアNo.1を連続獲得中。