塗装後の表面に発生した「白い汚れ」は農薬・肥料かも?汚染原因を解説
「塗り替え後、外壁塗膜に白い汚染物が付着している。不具合が発生したのではないか?」という疑問を持たれたご経験の塗装会社も多いのではないでしょうか?
アステックペイントではそのような白い汚染物が付着した原因を追求するために現場調査を実施しましたが、一般的な汚染物(カビや苔藻、泥、油汚れなど)ではなく、特殊な汚染物であることが考えられたため、汚染物の成分分析を行いました。
その結果、近隣で散布された農薬や肥料が外壁に付着していた可能性が高いのではないかという結論に至りました。そこで今回は、「散布された農薬・肥料による塗膜汚染」の実際の事例を紹介し、原因と対策を解説いたします。
実際の汚染事例
現場の状況
施工時期 | 2020年10月 |
発生時期 | 2021年1月 (施工後3ヶ月) |
外壁材 | 窯業系サイディング |
材 料 | 水性系上塗材 艶:3分艶 ・ 色:リーガルブラウン |
発生箇所 | 1階外壁 北面のみ |
発生状況 | 外壁の横目地から流れたように白い汚染物が付着している。 汚染物を指で擦ると簡単に除去することができ、指に白い粉が付着する。 汚染が発生した北面の周辺には畑が確認できる。 |
「現場状況」を踏まえ、原因究明に向けて調査を行いました。
・外壁の上部(軒天や屋根)には汚染を引き起こすような異常が確認できなかった
・発生箇所が塗り替え塗膜全面ではなく一部のみであった
・塗料の品質には異常がなく、施工にも問題がなかった
・上塗材に含まれる艶消剤が、乾燥途中に降雨や水分に当たることで塗膜表面に浮き出している可能性がある
以上の現場調査の結果から、発生箇所周辺の環境や施工当時の天気などの外的要因により発生した可能性を考え、今回は原因を特定するために成分分析を実施しました。
成分の分析結果と発生原因
成分の分析結果
成分分析の結果、汚染物主成分は「硫酸塩」の可能性が高いという結果が得られました。「硫酸塩」は農薬や肥料に含まれている成分ですが、一般的な塗料には含まれていません。
このことから、白い汚染は散布された農薬や肥料が塗膜に付着して発生したと結論付けました。
発生原因
分析結果および農薬の散布時期などから、外壁の白い汚染物は以下のようなメカニズムで発生したと考えられます。
①10月に外壁の塗装を実施した。
②北面には畑があり、硫酸塩を主成分とする農薬や肥料を散布していた、または散布が完了しており風で舞っていた。
③塗装直後や乾燥途中では塗膜表面に粘着性(ベタつき)があり、風で運ばれた農薬や肥料が外壁に付着した。
上記のようなメカニズムで白い汚染物が発生したものと推測されます。
【参考】農薬散布の時期について
農林水産省が発表した農薬の散布時期の目安より、4月から開始し10月頃まで続くというデータがあります。この物件は、10月の施工であり、散布された農薬が乾燥途中の塗膜表面に付着した可能性が考えられます。
発生した際の対策
風がない日に、スポンジ拭きを併用した高圧水洗浄(8kg/cm2程度)※ を行い、汚染物を洗い流します。粉末状になった農薬が外壁に残っている場合、雨が降ると溶け出し再度汚染が発生する可能性があります。そのため、経過観察を行い、再発した場合は再度汚染物を洗い流してください。
※スポンジ拭きを併用した高圧洗浄とは、スポンジで汚染物を拭き取り、外壁に残ってしまった汚染物を高圧洗浄で洗い流すことを意味します。
まとめ
本記事では、散布された農薬や肥料による塗膜汚染について、実際の事例をもとに原因と発生した際の対策をご紹介いたしました。外壁塗膜に白い汚染物が付着しており、以下の項目に当てはまる場合は今回ご紹介した「散布された農薬や肥料による塗膜汚染」の可能性が高いです。
・付着している汚染物は簡単に拭き取ることができる
・塗り替え工事後すぐに発生している (塗装後1ヶ月~3ヶ月程度)
・施工時期が、農薬が散布される4月~10月頃である
・近くに畑や手入れされている樹木がある
施主様から問い合わせを受けた場合は、以上の内容を確認していただき、今回ご紹介した対策を実施してください。
参考:詳しい成分分析の実施内容
白い汚染物を特定するために、赤外分光法での成分分析、および走査電子顕微鏡による写真撮影を行いました。
上塗材に含まれる艶消剤が、乾燥途中に降雨や水分に当たることで塗膜表面に浮き出している可能性を想定し、「採取した白い汚染物」と「艶消剤」の成分や形状の比較を行います。
※赤外分光法とは、赤外線が照射された物質が特定の波長を吸収する性質を利用して、ある物質と同じ成分で構成されているか、またはどのような成分から構成されているかを検査する分析方法です。
赤外分光法の結果
採取した白い汚染物(上グラフ)は、波長1100cm-1付近に特徴的な吸収ピーク(青色の破線箇所)が検出されました。塗料中の艶消剤には、波長1100cm-1付近に吸収ピークがないことから艶消剤ではないと判断できます。
走査電子顕微鏡の結果
採取した白い汚染物と塗料中の艶消剤の1000倍の電子顕微鏡写真です。
採取した白い汚染物は、形状、大きさともに塗料中の艶消剤とは大きく異なります。
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この記事の監修者と運営者
【記事監修】
株式会社アステックペイント
谷口 智弘
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株式会社アステックペイント
谷口 智弘
株式会社アステックペイント技術開発本部 本部長
住宅用塗料市場のマーケティング分析・品質管理を行う「商品企画管理室」、塗料の研究・開発を行う「技術開発部」、塗料の製造・生産・出荷を行う「生産部」の3事業部を統括するマネジャーとして、高付加価値塗料の研究・開発を行っている。
【運営会社】
株式会社アステックペイント
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株式会社アステックペイント
AP ONLINEを運営する株式会社アステックペイントは、建築用塗料を製造・販売する塗料メーカー。遮熱性、低汚染性に優れた高付加価値塗料の研究・開発の他、システム・販促支援など、塗装業界の課題解決につながる事業を展開。2020年以降、遮熱塗料国内メーカーシェアNo.1を連続獲得中。