梅雨時期に塗装作業を行う上での注意点
塗装工事職人の方々は梅雨時期に塗装工事を行う際に、塗膜乾燥までに突然の降雨によって悪影響を受けないよう、天候には最大限の配慮されていることかと思います。
それでも、塗装後に降雨によって、水性塗料・溶剤塗料に関わらず、水分の影響を受けて不具合が発生する可能性があります。
今回の記事では、梅雨時期に発生しやすい4つの不具合事例とそれらの原因・対策をご紹介します。梅雨時期の塗装工事をスムーズに進めるためにもぜひご確認ください。
目次
【事例1】水性塗料の乾燥途中の降雨による「塗膜の膨れ」
1つ目は水性塗料の乾燥途中に雨が降り、塗膜が膨れる事例です。
この現象は、建材の雨水の通り道や外壁材の凹部など水分が溜まりやすい箇所で発生することが多い不具合事例です。水分が塗膜内部に浸み込むことで発生する事例のため、水分をはじく溶剤塗料では発生しにくい事例です。
■膨れの原因
乾燥途中の水性塗膜表面に、雨水等の水分が長時間付着することで徐々に塗膜内部に浸み込み、水膨れが発生します。このような塗膜を「半透膜」と呼び、水が浸透する力(浸透圧)によって水膨れを引き起こします。
浸み込んだ水分量や現場環境にもよりますが、健全な塗膜に戻る場合もありますが(④-1)、そのまま膨れとして残る場合(④-2)、塗膜のシワや浮きが発生して付着不良となる場合(④-3)もあります。
■事前対策
・塗装後の工程間時間以内に降雨が予想される場合は、塗装を避けてください。
・塗膜の乾燥を促進させるため、1回あたりの塗布量を減らして塗布回数を増やす。
・水性塗料を使用する場合、希釈量を減らす。
■事後対策
・水膨れの発生後、塗膜乾燥が進むことで以下のいずれかの状態になるため、それぞれの対策内容で対応をしてください。
【事例2】水性塗料の塗装後の激しい降雨による「泡の発生」
2つ目は、水性塗料の乾燥途中、激しい降雨により竪樋や雨水の排出先で泡が発生する事例です。 特に、工場の屋根塗装など比較的面積の大きい塗装現場で起こりやすいため注意が必要です。
■原因
水性塗膜表面に残存していた界面活性剤※が、降雨によって運ばれ雨樋を通り、雨水枡や地面にたたきつけられる際に空気が入ることで石けんの泡のように発泡します。通常は、塗膜表面の界面活性剤は降雨で徐々に流されるか、太陽光で分解されるため、泡が発生することはありませんが、一気に流されることで泡の発生につながります。
※界面活性剤とは、下図のように「水と馴染みやすい部分(親水基)」と「油と馴染みやすい部分(親油基)」を併せ持ち、水と油のような混ざり合わないもの同士を、混ぜ合わせる働きをする成分です。 一般的に、石けんや洗剤等に広く使用されている成分です。
【塗膜形成後の界面活性剤による影響】
塗膜形成後の界面活性剤は、塗膜表面では徐々に消失し、塗膜内部では樹脂に取り込まれていきます。そのため、仕上がり(色や艶)や塗膜性能に影響を及ぼすことはありません。
■事前対策
・雨避けの養生を行い塗装面に降雨があたらないようにする。
■事後対策
・消泡剤を少しずつ添加し、泡が消えたことを確認後に雨水として排水する。※消泡剤の入手方法は、塗料メーカーにお問い合わせください。
・バケツ等に移して生活排水として処理する。※消泡剤:塗膜に発生する泡を低減するための添加剤です。
【事例3】水性塗料の乾燥途中の降雨による「塗料の流出」
3つ目は、水性塗料の乾燥途中に雨が降り、塗料が流出する事例。
■発生原因
乾燥途中の水性塗料に雨が降ると、塗膜表面が溶けて水が内部に浸透し、混ざります。その結果、塗料の粘度が下がり、雨水と共に流出します。また、降雨などの跳ね返り水や水みちによっても流出することがあり、残った塗膜も樹脂だけが流出し非常に脆くなっており、塗料性能を発揮できない可能性があります。
この現象は水性塗料特有で、溶剤の場合は、塗膜表面が水を弾くため流出しないが、艶や模様ムラになる可能性があります。
■事前対策
・雨避けの養生を行い降雨があたらないようにする。
・塗膜の乾燥を促進させるため、1回あたりの塗布量を減らして塗布回数を増やす。
・水性塗料を使用する場合、希釈量を減らす。
■事後対策
・高圧洗浄で弱い箇所を除去して同材料で再塗装する。
・流出した色水は、河川、海、湖などに流れ込まないようにし、現場を管轄する自治体(市区町村役場)の代表窓口・該当製品の製造メーカーにお問い合わせいただき、状況に応じた対策を講じるようにしてください。
※自治体によっては、SDS や成分表の提出を求められることもあります。その際は、該当製品の製造メーカーにお問い合わせください。
また、流出が続いている場合は、溝や土手等を作り流出の拡大を防いでください。その後は塗料を回収し、産業廃棄物として処分してください。
【事例4】溶剤塗料施工後の降雨による「白い斑点(白濁)の発生」
4つ目は、溶剤塗料の乾燥途中で降雨により塗膜表面が荒れ、白い斑点(白濁)が発生する事例です。本来あるはずの艶がない状態(艶が引けた状態)で仕上がり、ひどい場合には、部分的に艶ムラになる、全面の艶がなくなってしまう不具合事例です。
■発生原因
乾燥途中の溶剤塗料中の溶剤成分が揮発前に、降雨などの水分が塗膜表面に接触した際に発生します。このような現象を「ブラッシング」と呼び、溶剤系塗料の塗膜が艶なく白ぼけて仕上がることを指します。
溶剤塗料では溶剤乾燥時に気化熱を奪うため、塗膜の表面温度が低下します。その際に残存している雨水が結露することで塗膜表面が荒れて淡くなり、艶がなくなってしまいます。しかし、ブラッシングは、「塗膜表面の仕上がり不良」であるため、塗膜の機能・性能には影響を及ぼすことはありません。
■事前対策
・雨避けの養生を行い降雨があたらないようにする。
■事後対策
・雨天日を避け、 同材料で再塗装。
まとめ
今回は梅雨時期に発生しやすい4つの不具合事例をご紹介しました。
天候は予測ができるものの、常に正確とは限りません。このような条件下でも、事前に対策を講じておくことが、不具合発生のリスクを最小限に抑えるために非常に重要です。
ぜひ、今回の内容を皆様の現場でご活用ください。
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【記事監修】
株式会社アステックペイント
谷口 智弘
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谷口 智弘
株式会社アステックペイント技術開発本部 本部長
住宅用塗料市場のマーケティング分析・品質管理を行う「商品企画管理室」、塗料の研究・開発を行う「技術開発部」、塗料の製造・生産・出荷を行う「生産部」の3事業部を統括するマネジャーとして、高付加価値塗料の研究・開発を行っている。
【運営会社】
株式会社アステックペイント
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株式会社アステックペイント
AP ONLINEを運営する株式会社アステックペイントは、建築用塗料を製造・販売する塗料メーカー。遮熱性、低汚染性に優れた高付加価値塗料の研究・開発の他、システム・販促支援など、塗装業界の課題解決につながる事業を展開。2020年以降、遮熱塗料国内メーカーシェアNo.1を連続獲得中。